
「AIを使えば、動画編集は外注しなくても済むのでは?」「字幕付けやカット編集をAIに任せたいけれど、どこまで使えるのか分からない」。動画の担当になった広報・人事・経営者の方から、こうした声を聞く機会が増えました。編集ソフトに次々とAI機能が載り、ニュースでも話題になる一方で、実際の業務でどこまで頼れるのかは見えにくいのが現状です。
本記事では、AI動画編集で「できること」と「まだできないこと」を、制作の現場の目線で整理します。主要な編集ソフトに搭載されたAI機能、向いている動画と向いていない動画、自社で始めるときの進め方、制作費への影響までを順に解説します。AIを上手に使って、限られた予算と時間で成果の出る動画をつくるための判断材料にしてください。
AI動画編集とは?いま現場で何が起きているのか
AI動画編集とは、これまで人が手作業で行ってきた編集作業の一部を、AIが自動で処理する仕組みのことです。文字起こしや字幕の作成、無音部分のカット、ノイズの除去、素材の検索などが代表的な例です。まずは言葉の意味と、ここ1〜2年で起きている変化を整理しておきましょう。
「AIが動画を作る」と「AIが編集を手伝う」は別物
AI動画編集という言葉には、大きく2つの意味が混ざっています。1つは、文章を入力するとAIが映像そのものを生成する「動画生成AI」です。もう1つは、撮影した素材をもとに、人が行う編集作業をAIが手伝う「編集支援AI」です。
企業の動画制作で実務に入り始めているのは、主に後者の編集支援AIです。インタビューやセミナーなど、実際に撮影した映像を使う動画では、素材そのものは人が撮る必要があります。AIはその後の「面倒で時間のかかる作業」を肩代わりしてくれる存在だと考えると、イメージしやすいでしょう。
プロ向けの編集ソフトにAI機能が標準搭載された
変化が大きいのは、プロが日常的に使う編集ソフトそのものにAI機能が組み込まれたことです。Adobeは2025年4月、Premiere Proのアップデートで、短いクリップの前後をAIで延長する「生成拡張」や、映像の中身を自動で認識して素材を探しやすくする「メディアインテリジェンス」、字幕を27言語に翻訳する「キャプション翻訳」の提供を発表しました。
Blackmagic Designも、編集ソフトDaVinci Resolve 20で、台本をもとにタイムラインを作る機能や、マルチカメラの映像を自動で切り替える機能など、AIを使った新機能を多数発表しています。特別なツールを探さなくても、普段の編集ソフトの中でAIを使える時代になったといえます。
企業の活用はまだ「これから」の段階
一方で、企業の動画制作の現場でAIが当たり前になっているかというと、まだそうではありません。株式会社プルークスの「BtoB動画制作実態調査2024」(BtoB企業でプロモーション動画制作に携わる418名が対象)によると、動画制作に生成AIを「すでに取り入れている/取り組んでいる」と答えた人は全体の12%でした。
ただし、関心は高まっています。株式会社サイバーエージェントが2025年6月に大手広告主企業100社のデジタル広告担当者を対象に行った調査では、全体の54%が「現在、生成AIを継続的に活用している」と回答しました。さらに、3年後の予想として、SNS投稿動画や動画広告では58.0%が「制作の主体が人よりもAIであるレベルに達している」と答えています。いまは、使いどころを見極めた企業から差がつき始めている段階だといえるでしょう。
AI動画編集で「できること」7つ

AI動画編集が得意なのは、ルールがはっきりしていて、繰り返しの多い作業です。ここでは、企業の動画制作で実際に役立つ7つの機能を紹介します。ツール名は、公式サイトや公式発表で確認できた機能に限って挙げています。
①文字起こしと字幕の自動作成
最も効果を実感しやすいのが、話している内容の文字起こしと字幕の自動作成です。これまでは、動画を何度も止めながら1文字ずつ入力していた作業でした。Vrewのように、音声認識で字幕を自動で作ることを前面に打ち出したツールも広く使われています。
ただし、AIの字幕は「下書き」と考えるのが安全です。社名や商品名、業界の専門用語は聞き間違えることが多く、句読点や改行の位置も読みやすいとは限りません。最終的には人が全文を確認する前提で使いましょう。
②無音部分や言い間違いのカット
話し手が言葉に詰まった「間」や、「えー」「あのー」といったつなぎの言葉を見つけて、まとめてカットする機能も実用的です。Vrewは動画の無音部分を自動で検出して短くする機能を備えています。
海外のツールDescriptは、文字起こしした文章を編集すると映像も連動して編集される「テキストベース編集」で知られています。文章から単語を消せばその部分の映像も消えるため、文書を直す感覚でカット編集ができます。セミナーや社内向けの説明動画など、話す内容が中心の動画では作業時間を大きく減らせるでしょう。
③ノイズ除去と声の聞き取りやすさの補正
空調の音や周囲の話し声などの雑音を減らし、声を聞き取りやすくする機能も進化しています。DaVinci Resolveには音声分離の機能があり、Descriptもワンクリックで背景ノイズを除去して声を整える「Studio Sound」を提供しています。
オフィスの会議室で撮った映像など、録音環境が理想的でない素材を救えるのは大きなメリットです。ただし、マイクから遠すぎる声や、ほかの人の声と重なった部分までは完全には直せません。
④横長の映像を縦型に自動で切り出す
横長で撮った映像を、ショート動画向けの縦型に切り出す作業もAIが手伝ってくれます。有料版のDaVinci Resolve Studioに搭載されたスマートリフレーミングは、映像の中の人物などを追いかけながら、縦長の画面に収まるように切り出し位置を自動で調整する機能です。
YouTubeの本編を撮影し、同じ素材からショート動画もつくるといった使い方をする企業は増えています。1本の撮影から複数の動画を展開しやすくなる点で、費用対効果を高める機能といえます。
⑤大量の素材から必要なカットを探す
撮影素材が多くなるほど、「あのカットはどこだっけ」と探す時間が増えます。Premiere Proのメディアインテリジェンスは、映像に写っているものや場所、カメラアングルなどをAIが自動で認識し、言葉で検索できるようにする機能です。
DaVinci Resolveにも、出演者の顔をもとにクリップを自動で分類する顔認識の機能があります。イベントの記録映像や長期の密着取材など、素材が膨大になる案件ほど効果が出やすいでしょう。
⑥足りないカットをAIで補う
「あと1秒長ければ、音楽にぴったり合うのに」という場面は編集でよく起こります。Premiere Proの生成拡張は、クリップの前後に映像と音を生成して長さを延ばす機能で、Adobeの発表では4Kや縦型の映像にも対応しています。
撮り直しができない素材の微調整に使えるのは便利です。ただし、生成された部分はあくまでAIがつくった映像です。人物の表情や商品の形など、事実として正確さが求められる部分に使うのは避けたほうが無難でしょう。
⑦字幕の多言語翻訳
海外向けの会社紹介や、外国籍の社員向けの研修動画では、字幕の翻訳が必要になります。Premiere Proのキャプション翻訳は字幕を27言語に翻訳でき、Vrewも100か国語以上への翻訳字幕に対応しています。
翻訳の精度は上がっていますが、そのまま公開するのはおすすめしません。社名・役職名・業界用語の訳し方には会社ごとのルールがあるため、公開前にその言語が分かる人に確認してもらいましょう。
まだAIに任せられないこと(AI動画編集の限界)

AIは編集の「作業」を速くしてくれますが、動画の「中身」を決めてくれるわけではありません。ここを取り違えると、作業は早く終わったのに成果が出ない動画ができあがります。現時点でAIに任せきれない領域を整理します。
誰に何を伝えるかという設計
動画の成果を最も大きく左右するのは、編集より前の「企画」と「構成」です。誰に見てもらい、見た後にどう動いてほしいのか。その目的が決まらなければ、どのカットを使うべきかも決まりません。
AIに構成案を出してもらうことはできますが、自社の強み、ターゲットの本音、競合との違いといった前提を正しく入れなければ、どこかで見たような無難な構成になります。目的と伝えたいことを決めるのは、今も人の仕事です。
「どの瞬間を残すか」という判断
インタビュー動画で心に残るのは、言葉そのものよりも、話し手がふっと笑った表情や、言葉を選ぶ一瞬の間であることが多いものです。AIは無音を「不要な部分」として機械的に削ることはできても、その間に込められた意味までは判断できません。
AIで無音を一律にカットした動画は、テンポは良くても、どこか落ち着きのない印象になりがちです。採用動画や社長インタビューのように「人柄」を伝えたい動画では、残す間と削る間を人が見極める必要があります。
固有名詞・数字・表記の正確さ
AIによる文字起こしや翻訳は、社名、商品名、人名、専門用語を誤ることがあります。数字の聞き間違いが字幕に残ったまま公開されると、企業としての信頼に関わります。
特に注意したいのは、間違いが「それらしく」見える点です。明らかな誤字なら気づきますが、似た言葉に置き換わっていると見落としやすくなります。字幕は必ず人が原稿や資料と照らし合わせて確認しましょう。
撮影素材の質
AIで直せるのは、あくまで撮影された素材の範囲内です。暗すぎる映像、ピントの合っていない映像、マイクから遠くて声がこもった音は、AIで補正しても限界があります。
動画の見た目の印象は、照明の当て方やカメラの位置、背景の選び方など、撮影の段階でほぼ決まります。編集がどれだけ楽になっても、撮影の質がそのまま完成度の上限になる点は変わりません。
権利とブランドのチェック
AIで生成した映像や音声、AIが選んだ素材を使う場合は、権利面の確認も欠かせません。また、編集のテンポや字幕のデザイン、色味などが自社のブランドのトーンに合っているかを判断できるのも人だけです。生成AIでつくった素材の商用利用については、別の記事で詳しく取り上げる予定です。
AI動画編集が向いている動画・向いていない動画
できることと限界を踏まえると、AIを積極的に使うべき動画と、プロの手をかけるべき動画が見えてきます。すべての動画を同じやり方でつくる必要はありません。動画の目的に合わせて使い分けることが、予算を活かすコツです。
AIを積極的に使いたい動画
AI編集が力を発揮するのは、話す内容が中心で、本数が多く、スピードが求められる動画です。
- 社内向けの研修動画や業務マニュアル動画
- セミナーやウェビナーの録画の整理
- YouTube本編から切り出すショート動画
- 社内報・社内イベントの記録映像
これらは「情報が正確に伝わること」が最優先で、細かな演出の差が成果を大きく左右しにくい動画です。AIで作業時間を減らし、その分を本数や更新頻度に回すほうが成果につながりやすいでしょう。
プロの手をかけたい動画
一方で、見た人の第一印象を左右する動画は、AI任せにしないほうが安全です。
- 会社紹介・ブランドムービー
- 採用動画・社員インタビュー動画
- 商品・サービスの紹介動画や広告動画
- 展示会や周年記念など、一度きりの場で流す動画
これらの動画は、会社の「顔」として長く使われます。表情の選び方、音楽との合わせ方、色味の統一感といった細部の積み重ねが、そのまま会社の印象になります。企画・撮影・編集の各段階でプロの判断を入れる価値が大きい領域です。
判断に迷ったときの目安
どちらに当てはまるか迷ったときは、次の表を目安にしてください。
| 判断のポイント | AI中心で内製しやすい | プロに任せたい |
|---|---|---|
| 見る人 | 社員・既存の顧客 | 求職者・見込み客・取引先 |
| 求められること | 情報の正確さ・スピード | 印象・信頼感・ブランド |
| 本数 | 毎月・毎週つくる | 年に数本 |
| 使う期間 | 数週間〜数か月 | 1年以上 |
自社でAI動画編集を始めるときの進め方

AI動画編集を社内に取り入れるときは、いきなりすべてを置き換えようとしないことが大切です。効果が見えやすい作業から始めて、少しずつ範囲を広げていきましょう。ここでは、失敗しにくい進め方を4つのステップで紹介します。
まずは字幕付けと無音カットから試す
最初に取り入れるなら、字幕の自動作成と無音部分のカットがおすすめです。どちらも効果がすぐに分かり、仕上がりの良し悪しも判断しやすい作業です。
いきなり有料プランを契約する前に、無料プランや体験版で、自社の素材を使って試してみましょう。自社の社名や商品名がどのくらい正しく認識されるかを見るだけでも、どこまで任せられるかの感覚がつかめます。
社内のチェックルールを決めておく
AIで作業が速くなるほど、確認の工程が抜けやすくなります。字幕の表記ルール(社名の正式表記、数字の書き方、英語の大文字小文字など)と、公開前に誰が何を確認するかを、最初に決めておきましょう。
チェックリストを一枚用意しておくだけでも、公開後に誤字が見つかって差し替える手間を防げます。担当者が替わっても品質を保てる点でも有効です。
撮影の質を上げる工夫をする
先に触れたとおり、AIで直せるのは撮影された素材の範囲内です。内製で動画をつくるなら、編集ソフトより先に、マイクと照明に投資するほうが仕上がりは確実に良くなります。
話し手の近くにピンマイクを付ける、窓を背にして撮らない、背景を整理するといった基本を押さえるだけで、AIの文字起こしの精度も上がります。撮影と編集はつながっていると考えましょう。
プロとAIで役割を分担する
すべてを内製するか、すべてを外注するかの二択で考える必要はありません。会社の顔になる動画の企画と撮影はプロに任せ、その素材を使ったショート動画や社内向けの展開はAIを使って内製する、といった分担が現実的です。
撮影素材を上手に使い回せるよう、最初の撮影の段階で「あとで縦型にも切り出す」「字幕を付けて社内でも使う」といった展開を制作会社に伝えておくと、素材を最大限に活用できます。
AIを使うと動画制作の費用は安くなる?

AIの話題になると、「AIを使えば制作費は下がるのでは」と聞かれることがよくあります。答えは「下がる部分と、下がらない部分がある」です。見積もりを見るときに知っておきたいポイントを整理します。
安くなりやすいのは「作業」の部分
文字起こし、字幕の作成、素材の整理、簡単なカット編集といった作業は、AIによって時間が短くなりやすい部分です。特に、話す内容が中心の動画や、同じ形式の動画を何本もつくる場合は、作業時間の短縮が費用に反映されやすくなります。
私たちアクエリアス・ムービーも、文字起こしや素材の整理にはAIを取り入れています。そのうえで、どの発言を残し、どの順番で見せるかは、最終的に人が判断しています。
安くなりにくいのは「判断」と「撮影」の部分
一方で、企画・構成、撮影、演出、全体の仕上げといった部分は、AIで大きく短縮できるものではありません。撮影にはカメラマンや照明・音声のスタッフが必要で、当日の進行や出演者への声かけも人にしかできない仕事です。
動画の成果を決めるのはむしろこちらの部分です。AIで浮いた時間を、企画の詰めや撮影の工夫に回せる制作会社かどうかも、依頼先を選ぶときの見どころになります。
見積もりで確認しておきたいこと
外注の費用は内容によって幅がありますが、編集が中心の簡易な動画であれば1本5〜20万円がひとつの目安です。見積もりを比べるときは、金額だけでなく、次の点も確認しておくと安心です。
- 字幕の有無と、字幕の確認を誰が行うか
- 修正は何回まで含まれているか
- 縦型・ショート版など、別の形への展開が含まれるか
- AIで生成した素材を使う場合、その扱いをどうするか
AI動画編集に関するよくある質問

最後に、AI動画編集について企業の担当者からよく寄せられる質問にお答えします。導入を検討するときの参考にしてください。
Q. 無料のAI編集ツールでも、企業の動画に使えますか?
社内向けの動画や、まず試してみる段階であれば十分に使えます。ただし、無料プランには利用時間や書き出しの画質に制限があることが多く、ロゴの表示などが入る場合もあります。社外に公開する動画に使う前に、利用規約と商用利用の条件を必ず確認しましょう。
Q. AIがあれば、動画編集の経験がない社員でも編集できますか?
字幕付けや無音カットなど、決まった作業であれば経験がなくても取り組みやすくなりました。一方で、構成を組み立てたり、見る人を飽きさせないテンポをつくったりするには、やはり経験が必要です。最初は短い社内向けの動画から始め、慣れてきたら範囲を広げるのがおすすめです。
Q. AIで編集した動画だと、見た人に分かってしまいますか?
字幕付けやノイズ除去のような補助的な使い方であれば、見た人が気づくことはほとんどありません。ただし、無音を一律にカットしてテンポが不自然になっていたり、AIで生成した映像に違和感があったりすると、「機械的な動画」という印象を与えることがあります。仕上げは人の目で確認しましょう。
Q. 制作会社に依頼する場合も、AIを使ってもらうことはできますか?
対応している制作会社は増えています。ただし、どの工程でAIを使うか、生成した素材を使うかどうかは、会社や案件によって考え方が異なります。気になる場合は、見積もりの段階で「どの作業にAIを使うのか」「生成素材を使う場合はどう扱うのか」を確認しておくと安心です。
まとめ:AIは「作業」を任せ、「判断」は人が担う
AI動画編集は、文字起こし、字幕、無音カット、ノイズ除去、縦型への切り出し、素材探しといった作業を大きく効率化してくれます。プロ向けの編集ソフトにもAI機能が標準で搭載され、使わない理由のほうが少なくなってきました。
一方で、誰に何を伝えるかを決める企画、どの瞬間を残すかという判断、撮影の質、固有名詞の正確さ、ブランドとの整合性は、今も人が担う領域です。社内向けや量産型の動画はAIを使って内製し、会社の顔になる動画はプロに任せる。この使い分けが、限られた予算で成果を出す近道です。
アクエリアス・ムービーでは、企画・撮影・編集までをワンストップでお手伝いしています。プロが撮影した素材を、ショート動画や社内向けの動画に展開する進め方もご相談いただけます。
こんな方は、まず一度ご相談ください
AIツールを試してみたものの、仕上がりに納得できなかった方は少なくありません。会社紹介や採用動画など、会社の顔になる動画をつくりたい方、撮影した素材をショート動画や社内向けにも展開したい方は、ぜひ一度お声がけください。どこまでを内製し、どこからをプロに任せるかの線引きから一緒に考えます。詳しくはアクエリアス・ムービーをご覧ください。
逆に、まだ相談しなくても大丈夫な方
社内向けの研修動画やセミナー録画など、情報が正確に伝われば十分な動画であれば、まずはAIツールで内製してみるのも良い選択です。動画の目的やターゲットがまだ社内で固まっていない段階であれば、先に社内での議論を進めるほうが、結果的に良い動画につながります。準備が整った段階で、改めてご相談いただければ幸いです。

