
「決算説明会の様子を動画で公開したいが、何から手をつければよいか分からない」「スライドを読み上げるだけの動画になってしまい、投資家に伝わっている気がしない」。IRを担当する方や経営者の方から、こうしたご相談をいただくことが増えました。説明会をオンラインで配信したり、録画をIRサイトに載せたりする会社は珍しくなくなり、動画でどう伝えるかが、IRの質を左右するようになっています。
一方で、IR動画は普通の会社紹介動画とは違い、開示のルールや数字の正確さに特に気を配る必要があります。見せ方を工夫するだけでなく、何をいつ、どこまで話してよいかを押さえておかないと、思わぬトラブルにつながることもあります。
本記事では、IR動画・決算説明動画とは何か、作るメリット、投資家に伝わる構成と見せ方のコツ、必ず守りたい注意点、制作の流れと費用の考え方までを、動画制作会社の立場から解説します。初めてIR動画を作る方も、今の動画を見直したい方も、判断材料にしてください。
IR動画とは?決算説明動画が増えている背景

IR動画とは、株主や投資家に向けて、会社の業績や経営方針、今後の成長の道筋を伝えるための動画です。まずは種類と、ここ数年で取り組む会社が増えている理由を整理しておきましょう。
投資家に向けて会社の今と将来を伝える動画
IRは「Investor Relations(インベスター・リレーションズ)」の略で、会社が投資家に向けて行う情報発信や対話のことです。IR動画は、その手段の1つとして、決算の内容や経営者の考えを映像と音声で伝えます。資料だけでは読み取りにくい「数字の背景」や「経営者が何を大事にしているか」を伝えられるのが、文字の資料との大きな違いです。
主なIR動画の種類
IR動画には、目的に応じていくつかの種類があります。
- 決算説明動画:四半期や通期の決算について、業績と今後の見通しを説明する動画
- 中期経営計画の説明動画:数年先の目標と、その達成に向けた戦略を説明する動画
- 個人投資家向けの会社紹介動画:事業の内容や強みを、専門知識がなくても分かるように紹介する動画
- 統合報告書と連動した動画:会社の価値観や長期的な取り組みを、映像で印象に残す動画
- 株主総会の録画・ダイジェスト:当日の様子や議長の説明を、参加できなかった株主に届ける動画
本記事では、この中でも取り組む会社が多い決算説明動画を中心に、ほかの種類にも共通する考え方を紹介します。
会社紹介動画との違い
会社紹介動画は、取引先や求職者など幅広い人に向けて、会社の魅力を印象的に伝えることを目的にしています。一方、IR動画の主な相手は、会社の価値を数字と根拠で判断しようとする投資家です。そのため、映像の雰囲気よりも、説明の分かりやすさと正確さが優先されます。演出を足すよりも、投資家が知りたい順番で、必要な情報を過不足なく伝えることが大切です。ただし、個人投資家向けの会社紹介動画のように、会社紹介動画に近い作り方をするものもあり、相手によって作り方を変える必要があります。
取り組む会社が増えている背景
背景の1つは、投資家との対話を重視する流れが強まっていることです。東京証券取引所は2023年3月から、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を求めています。現状を分析し、計画を開示し、取り組みの進み具合を毎年更新していくことが求められており、その内容を投資家に分かりやすく伝える手段として、動画が使われるようになっています。
また、東京証券取引所は2025年4月から、プライム市場の上場会社に対して、決算情報と適時開示情報の英文での開示を義務づけました(体制の準備に時間がかかる会社には猶予期間があります)。海外の投資家への発信が当たり前になる中で、英語字幕を付けた動画も選択肢に入ってきています。
加えて、説明会をオンラインで開く会社が増えたことで、「録画をそのまま載せるだけでなく、見やすく編集したい」というご相談も増えています。
IR動画を作る4つのメリット
IR動画には、資料や対面の説明会だけでは得にくいメリットがあります。代表的なものを4つ紹介します。
説明会に来られない投資家にも同じ内容を届けられる
決算説明会に参加できるのは、時間と場所の都合がつく一部の投資家だけです。動画にしておけば、平日の日中に時間が取れない個人投資家や、遠方の投資家にも、説明会と同じ内容を届けられます。金融庁のフェア・ディスクロージャー・ルール(2018年4月施行)では、公表されていない重要な情報を一部の投資家やアナリストにだけ伝えることが原則として認められていません。すべての投資家に同じ情報を同じように届けるという考え方とも、動画は相性がよい手段です。
経営者の考えや人柄が伝わる
投資家は数字だけでなく、「この経営者に任せて大丈夫か」も見ています。同じ内容でも、経営者が自分の言葉で、自分の表情で語ることで、資料の文字だけでは伝わらない熱意や誠実さが伝わります。特に、業績が思わしくない期こそ、経営者が正面から説明する姿勢が信頼につながります。
何度でも見られる資産になる
動画はIRサイトに置いておけば、投資家が必要なときに何度でも見返せます。過去の決算説明動画を並べておけば、会社の歩みや、経営者の言っていたことが実現されてきたかを確かめる材料にもなります。説明会のたびに同じ質問に答える手間が減るという、IR担当者側の効果もあります。
英語字幕で海外の投資家にも届けやすい
日本語の動画に英語字幕を付ければ、海外の投資家にも内容を伝えやすくなります。資料の英訳だけでは伝わりにくい経営者の語り口も、字幕付きの動画なら届けられます。英文開示が求められる流れの中で、資料の英訳とあわせて検討する会社も出てきています。
決算説明動画の基本構成

決算説明動画は、決まった型に沿って組み立てると、見る側も理解しやすくなります。ここでは基本となる構成を紹介します。
冒頭で「今回の決算の要点」を伝える
最初の1分で、今回の決算で一番伝えたいことを言い切りましょう。「売上は過去最高、利益は先行投資で減少」のように、結論を先に示すと、その後の説明が頭に入りやすくなります。投資家は多くの会社の決算を短い時間で見ているため、冒頭で要点がつかめない動画は、最後まで見てもらえないことがあります。
業績は「数字」と「理由」をセットで説明する
売上や利益の数字を並べるだけでは、投資家が知りたいことには答えられません。なぜ増えたのか、なぜ減ったのか、その要因は一時的なものか、続くものかを、数字とセットで説明します。事業ごとの内訳や、前年同期・計画との比較も、グラフを使って短く示すと伝わりやすくなります。
今後の見通しと具体的な取り組み
投資家が最も関心を持つのは、これから会社がどうなるかです。通期の業績予想や、その達成に向けた具体的な取り組みを説明します。前回の説明で約束したことがどこまで進んだかを振り返ると、説明の一貫性が伝わり、信頼につながります。
株主還元と資本政策
配当や自社株買いなどの株主還元の方針も、多くの投資家が確認したい項目です。あわせて、資本コストを意識した経営についての考え方や、成長投資とのバランスをどう考えているかを説明すると、東京証券取引所の要請にも沿った内容になります。
締めの挨拶と問い合わせ先の案内
最後は経営者からのメッセージで締めくくります。あわせて、説明資料の掲載場所や、IRの問い合わせ窓口を案内しておくと、動画を見た投資家が次の行動に移りやすくなります。
投資家に伝わる見せ方のコツ

同じ内容でも、見せ方によって伝わり方は大きく変わります。ここでは、制作の現場でよくお伝えしているコツを紹介します。
スライドをそのまま読み上げない
資料に書いてある文字を読み上げるだけの動画は、資料を読めば済んでしまいます。動画では、資料に書ききれない背景や、数字に込めた意味を話すことに時間を使いましょう。スライドには要点だけを残し、詳しい数字は別の資料で確認してもらう、という役割分担が効果的です。
グラフは1画面に1つのメッセージ
1枚のスライドにグラフや表を詰め込みすぎると、どこを見ればよいか分からなくなります。伝えたいことを1画面に1つに絞り、注目してほしい数字は色や大きさで目立たせます。動画では、話に合わせてグラフを順番に表示させたり、強調したい部分を拡大したりできるのも強みです。
経営者が自然に話せる環境を整える
原稿を手元で読みながら話すと、目線が下がり、表情も硬くなりがちです。カメラのレンズの前に原稿を映すプロンプターを使えば、カメラを見たまま話せます。一方で、原稿を一字一句読むと棒読みに聞こえることもあるため、要点だけを映して自分の言葉で話してもらうなど、経営者の話し方に合わせた工夫が大切です。
説明会の録画とは別に「要点版」を作る
説明会の全編を載せるだけでは、忙しい投資家には長すぎることがあります。全編の録画とは別に、要点だけをまとめた短い動画を作っておくと、初めて会社を知った個人投資家にも見てもらいやすくなります。要点版は、SNSや個人投資家向けのサイトで紹介する入り口にもなります。
字幕を付けて音を出さなくても分かるようにする
移動中や職場では、音を出さずに動画を見る人も少なくありません。字幕を付けておけば、音が出せない環境でも内容が伝わります。専門用語や数字を字幕で確認できるため、聞き間違いを防ぐ効果もあります。英語字幕を付ける場合は、IRの用語に詳しい人に確認してもらうと安心です。
IR動画で必ず守りたい注意点
IR動画は、会社の株価に影響する情報を扱います。普通の動画以上に、内容とタイミングの管理が大切です。
公表前の情報を動画で先に出さない
決算の数字や重要な決定は、適時開示で公表してから動画で説明するのが原則です。動画の公開が開示より先になったり、動画の中でだけ新しい情報を話したりすると、フェア・ディスクロージャー・ルールやインサイダー取引規制の面で問題になるおそれがあります。撮影の段階で話してよい範囲を確認し、公開の時刻も開示の時刻とそろえて決めておきましょう。
業績予想には注意書きを入れる
将来の見通しは、さまざまな要因で変わる可能性があります。業績予想や計画について話す場合は、「将来の見通しは現時点の情報に基づくもので、実際の結果は異なる可能性があります」といった注意書きを、動画の冒頭や最後に表示しておくのが一般的です。説明資料に入れている注意書きと内容をそろえておきましょう。
数字の誤りを防ぐ確認体制をつくる
IR動画で数字を間違えると、訂正が必要になり、会社の信用にも関わります。テロップやグラフの数字は、開示資料と1つずつ突き合わせて確認します。経営者が話の中で数字を言い間違えた場合も、そのまま使わずに撮り直すか、編集で対応するかを決めておく必要があります。IR担当と経理・財務の担当者が、公開前に必ず確認する流れをつくっておくと安心です。
話す内容と開示資料の食い違いに気をつける
動画の中の説明と、決算短信や説明資料の内容がずれていると、投資家を混乱させます。特に、撮影後に資料の数字が修正された場合は、動画のテロップやグラフも必ず直します。撮影は資料が固まってから行うのが理想ですが、スケジュールが厳しい場合は、数字を後から差し替えやすい作り方にしておくと対応しやすくなります。
質疑応答を載せるときの扱いを決めておく
説明会の質疑応答まで動画に含める場合は、質問者の名前や所属を出すかどうかを事前に決めておきましょう。質問者の顔や声が入る場合は、本人の了解を得るか、編集で配慮します。また、質疑応答の中で、まだ公表していない情報に触れる発言がなかったかも、公開前に確認が必要です。質疑応答を載せない場合でも、よく出た質問と回答を文字でまとめてIRサイトに載せておくと、投資家にとって役立つ情報になります。
BGMや映像素材の権利も確認する
IR動画も、会社として公開する動画であることに変わりはありません。BGMやイメージ映像は、商用利用が認められた素材を使い、利用条件を確認します。社員や工場の映像を使う場合は、出演する人の同意や、映ってはいけない情報が画面に入っていないかも確認しましょう。
IR動画の作り方|制作の流れと費用の考え方

ここでは、決算説明動画を例に、制作の流れと費用の考え方を紹介します。
スケジュールは決算発表日から逆算する
決算説明動画は、公開日が決算発表日に決まっているのが大きな特徴です。発表日から逆算して、資料の確定、撮影、編集、社内確認の日程を決めます。決算期は経理やIRの担当者が最も忙しい時期でもあるため、撮影日や確認の締め切りは、早めに社内で押さえておきましょう。
撮影は事前収録が基本
決算説明動画は、会議室やスタジオで事前に収録する方法が一般的です。事前収録なら、言い間違いを撮り直したり、照明や音声を整えたりできるため、落ち着いた映像に仕上がります。説明会をライブで配信する場合でも、別に要点版を事前に撮っておくと、公開後の活用がしやすくなります。撮影では、経営者の表情がはっきり見える照明と、聞き取りやすい音声の収録が特に大切です。
撮影場所は「会社らしさ」と「落ち着き」で選ぶ
撮影場所は、社長室や役員会議室、エントランスなど、会社の雰囲気が伝わる場所が候補になります。背景にロゴやコーポレートカラーが自然に入ると、どの会社の動画かが一目で分かります。一方で、窓からの光が時間によって変わる場所や、人の出入りや空調の音が気になる場所は、映像と音声が安定しにくくなります。社内に適した場所がない場合は、撮影スタジオを借りる方法もあります。決算のたびに同じ場所で撮るなら、照明やカメラの位置を記録しておくと、毎回同じ見た目で撮影できます。
編集と社内確認
編集では、話に合わせてスライドやグラフを入れ、字幕や注意書きを加えます。完成までに、IR担当、経理・財務、必要に応じて法務の担当者が確認できるよう、確認の回数と順番をあらかじめ決めておきましょう。確認する人が多いほど修正が増えやすいため、誰が最終的に判断するのかを決めておくことも大切です。
公開と二次活用
完成した動画は、IRサイトに掲載するのが基本です。YouTubeなどの動画サイトに載せておくと、IRサイトに埋め込みやすく、検索から見つけてもらえる機会も増えます。話した内容の書き起こしを一緒に載せておけば、動画を見る時間がない人にも内容が伝わります。
公開した後は、再生回数や、どこで見るのをやめた人が多いかを確認しておきましょう。途中で見るのをやめる人が多い場面があれば、次回はその部分を短くしたり、順番を入れ替えたりする判断材料になります。個人投資家向けの説明会や採用活動など、ほかの場面で使える部分がないかを考えておくと、1本の動画をより長く活用できます。
費用の考え方
費用は、撮影の規模と編集の作り込みによって大きく変わります。経営者の説明を1回撮影し、スライドと合わせて編集するシンプルな決算説明動画であれば、比較的費用を抑えやすい作り方です。事業の現場や工場を撮影し、企業PR動画のように作り込む場合は、会社紹介・企業PR動画と同じく、50万〜200万円程度が目安になります。英語字幕などの多言語対応を加える場合は、翻訳を含めて1言語あたり数万円〜20万円程度が別にかかることが一般的です。決算のたびに作る場合は、撮影の型を決めておくことで、2回目以降の手間と費用を抑えられます。
よくある質問
Q. 決算説明会の録画をそのまま載せるだけでもよいですか?
A. 録画をそのまま載せるだけでも、説明会に来られなかった投資家に内容を届けるという目的は果たせます。ただし、長い録画は途中で見るのをやめられやすいため、目次を付けたり、要点版の短い動画を別に用意したりすると、より多くの人に見てもらえます。
Q. 経営者がカメラの前で話すのが苦手です。どうすればよいですか?
A. 苦手な方ほど、事前収録がおすすめです。プロンプターを使えば原稿を見ながらカメラ目線で話せますし、言い間違えても撮り直せます。インタビュー形式にして、聞き手の質問に答えてもらう方法にすると、自然な表情を引き出しやすくなります。
Q. 決算説明動画は毎回作り直す必要がありますか?
A. 決算の内容は毎回変わるため、説明の部分は撮り直しが必要です。ただし、冒頭や締めの映像、テロップのデザイン、グラフの見せ方などは型として使い回せます。最初に型をしっかり作っておくと、2回目以降は短い期間で制作できるようになります。
Q. 英語版も作ったほうがよいですか?
A. 海外の投資家の比率が高い会社や、プライム市場に上場している会社では、検討する価値があります。経営者の話を英語で撮り直す方法もありますが、まずは日本語の動画に英語字幕を付ける方法から始めると、負担を抑えられます。
Q. 社長ではなく、財務の担当役員が説明してもよいですか?
A. もちろん問題ありません。業績の細かい説明は財務の担当役員が行い、経営方針や今後の戦略は社長が話す、という分担もよく見られます。話し手が変わる場合は、名前と役職をテロップで表示し、誰がどの部分を説明しているかが分かるようにしておきましょう。
Q. 上場していない会社でもIR動画は役に立ちますか?
A. 上場を目指している会社や、金融機関・取引先に業績や経営方針を説明する機会がある会社にも役立ちます。株主や関係者に向けて、会社の今と将来を分かりやすく伝えるという考え方は同じです。
まとめ:IR動画は「数字の背景」と「経営者の姿勢」を伝える道具

IR動画は、決算や経営方針を、投資家に映像と音声で伝える動画です。説明会に来られない投資家にも同じ内容を届けられ、経営者の考えや人柄が伝わり、何度でも見られる資産になります。決算説明動画では、冒頭で要点を言い切り、数字と理由をセットで説明し、今後の見通しと株主還元まで伝える構成が基本です。そのうえで、公表前の情報を出さないこと、数字を正確にすること、開示資料と内容をそろえることを、必ず守りましょう。
まずは、自社の決算説明で「資料だけでは伝わっていないこと」は何かを考えてみてください。それが、動画で経営者が語るべき内容になります。
アクエリアス・ムービーでは、会社紹介動画や採用動画、商品紹介動画、研修動画など、企業のさまざまな動画を企画から撮影、編集まで一貫して制作しています。経営者のインタビューやプレゼンテーションの撮影では、照明と音声を整え、話しやすい環境づくりから一緒に進めています。
こんな方は、まず一度ご相談ください
初めて決算説明動画を作るため、構成や撮影の進め方から相談したい方や、今の動画がスライドの読み上げになっていて見直したい方、経営者がカメラの前で話すことに慣れておらず不安がある方は、ぜひ一度お声がけください。決算発表日までのスケジュールや、社内の確認の流れをうかがったうえで、無理のない作り方を費用の目安とあわせてご提案します。詳しくはアクエリアス・ムービーをご覧ください。
逆に、まだ相談しなくても大丈夫な方
まずは説明会の録画をIRサイトに載せてみたい段階であれば、オンライン会議ツールの録画機能などを使い、自社で公開してみるのもよい方法です。実際に公開してみると、どのくらい見られているか、どこが分かりにくいかが見えてきます。そのうえで、経営者の語りをきちんと伝える動画を作りたくなったときに、改めてお声がけいただければ幸いです。

