
「文章を入れるだけで動画ができるなら、もう撮影はいらないのでは?」「ニュースで見る動画生成AIの映像はすごいけれど、うちの会社の動画にも使えるのだろうか」。動画を担当する広報や人事、経営者の方から、こうしたご質問をいただくことが増えました。SNSには本物と見分けがつかないような映像があふれ、動画制作の常識が大きく変わりつつあるように感じている方も多いはずです。
一方で、動画生成AIは「何でも作れる魔法の道具」ではありません。得意なことと苦手なことがはっきりしていて、企業の動画にそのまま使うには、権利や信頼性の面で気をつけるべき点もあります。使いどころを間違えなければ、企画のスピードを上げたり、撮影できないカットを補ったりと、心強い味方になります。
本記事では、動画生成AIとは何か、主なツールでできるようになったこと、企業の動画制作での使いどころと苦手なこと、使うときの注意点、そして実写の撮影とどう組み合わせればよいかを、動画制作会社の立場から解説します。AIを取り入れるかどうかを考えるときの判断材料にしてください。
動画生成AIとは?編集を手伝うAIとの違い

動画生成AIとは、文章や画像を入力すると、AIが映像そのものを作り出す仕組みのことです。まずは言葉の意味と、ここ1〜2年で起きている変化を整理しておきましょう。
文章や画像から「映像そのもの」を作る
動画生成AIでは、「夕暮れのオフィスで、窓際に立つ女性がゆっくり振り返る」といった文章(プロンプト)を入力すると、その内容に合った数秒〜十数秒の映像が生成されます。文章から作る方法のほかに、1枚の写真やイラストを入れて、それを動かす方法もあります。カメラも出演者も使わずに映像が手に入るのが、最大の特徴です。
撮った素材を整える「編集支援AI」とは別物
AIと動画の話題では、もう1つ「編集支援AI」と呼ばれるものがあります。こちらは、撮影した素材をもとに、文字起こしや字幕作成、無音部分のカット、ノイズ除去などを自動で行うものです。素材は人が撮り、その後の作業をAIが手伝うという関係です。
動画生成AIは、素材そのものをAIが作る点で、編集支援AIとは役割がまったく異なります。「AIで動画を作る」と言うとき、どちらの話をしているのかを分けて考えると、社内での議論も整理しやすくなります。
映像と音を同時に作れるようになった
ここ1〜2年で大きく変わったのは、映像の自然さだけではありません。少し前までの動画生成AIは、音のない映像を作るものが中心でした。現在は、人物のセリフや効果音、環境音まで映像と合わせて生成できるツールが登場しています。また、同じ人物や物を、場面が変わっても同じ見た目のまま登場させる機能も強化されてきました。こうした進歩によって、「短い映像の素材」から「場面のつながった映像」へと、使える範囲が少しずつ広がっています。
主な動画生成AIと、できるようになったこと
動画生成AIのツールはいくつもありますが、ここでは企業の担当者の方も名前を耳にすることが多い3つを取り上げます。機能は更新が早いため、実際に使う際は各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。
OpenAI「Sora 2」
ChatGPTを開発するOpenAIは、2025年9月末に動画生成モデル「Sora 2」を発表しました。映像に合わせて、セリフや背景の音、効果音を同時に生成できるのが特徴です。あわせて公開されたアプリには、本人確認を経た利用者が自分の姿や声を映像に登場させられる「Cameo(カメオ)」という機能があります。OpenAIは、書き出した動画に透かし(ウォーターマーク)を入れ、AIで作られたことを示す来歴情報を付けるなど、悪用を防ぐ仕組みも用意していると説明しています。
Google「Veo 3.1」
Googleは2025年10月、動画生成モデル「Veo 3.1」と、映像制作ツール「Flow」の新機能を発表しました。複数の参考画像を入れて、登場人物や物、映像の雰囲気を指定する機能や、最初と最後の場面を画像で指定して、その間をつなぐ映像を作る機能が用意されています。さらに、生成した映像の最後の1秒をもとに続きを作ることで、1分以上の映像を作れるとしています。これらの機能でも音声を生成できるようになりました。
Runway「Gen-4」
映像制作者向けのツールを提供するRunwayは、2025年3月に「Gen-4」を発表しました。1枚の参考画像をもとに、照明や場所が変わっても同じ人物や物を一貫した見た目で生成できることを打ち出しています。動画生成AIの弱点とされてきた「カットが変わると人物の顔や服装が変わってしまう」問題に、正面から取り組んだモデルです。
3つに共通して得意なこと
ツールごとに特徴は違いますが、共通して得意なのは「現実には撮りにくいイメージ映像」を短時間で作ることです。空撮のような雄大な風景、未来の街並み、抽象的な光の動きなど、撮影すれば大がかりになる映像を、数分の作業で何パターンも試せます。広告やSNSの世界で動画生成AIが一気に広がったのは、この「試行錯誤の速さ」が大きな理由です。一方で、企業の動画で求められる「自社の事実を正確に伝える映像」は、また別の話になります。この点は、後ほど詳しく説明します。
企業の動画制作での使いどころ

では、会社紹介動画や採用動画、商品紹介動画といった企業の動画では、動画生成AIをどこで使えばよいのでしょうか。私たちが現場で「ここは相性がよい」と感じている場面を紹介します。
企画段階のイメージ共有に使う
最も効果が大きいのは、企画の段階です。これまでは、絵コンテや参考動画を集めて「こんな雰囲気の映像にしたい」と伝えていましたが、言葉や静止画だけでは、社内の関係者とイメージをそろえるのが難しいこともありました。動画生成AIで仮の映像を作れば、完成形に近い動きや色味を見ながら話し合えます。決裁者の方に企画を説明するときにも、イメージが伝わりやすくなります。
撮影できないカットを補う
会社のビジョンを語る場面で使う未来の街の映像や、地球を宇宙から見たようなスケールの大きな映像など、撮影が難しい、あるいは費用がかかりすぎるカットを補う使い方です。実写の映像の中に、短いイメージカットとして差し込むと、全体の質感をそろえやすくなります。ただし、後で説明するように、実写と並べたときに違和感が出ないかの確認は欠かせません。
SNS広告のバリエーションを増やす
SNS広告では、冒頭の数秒や背景の映像を変えたパターンをいくつも用意し、反応のよいものを残していく運用が一般的です。動画生成AIを使えば、こうしたバリエーションを短期間で作れます。メインの映像は実写で撮り、背景や導入部分のイメージ映像をAIで作り分けるといった組み合わせ方が現実的です。
展示会やイベントの背景映像に使う
展示会のブースや採用イベントの会場では、大型モニターで映像を流し続けることがよくあります。こうした場面では、細かい説明よりも、遠くからでも目を引く色や動きが求められます。会社のテーマカラーに合わせた抽象的な映像や、事業のイメージを表す風景の映像などは、動画生成AIが得意とするところです。ループ再生する背景映像として使えば、ブースの雰囲気づくりに役立ちます。ただし、製品の説明や会社の実績を伝える部分は、実写の映像や正確な資料を組み合わせて見せるようにしましょう。
社内向けの説明動画の挿絵として使う
研修や社内説明の動画では、「お客様が困っている場面」「事故が起きる前の状況」など、言葉だけでは伝わりにくい場面があります。こうした場面を、イメージとして短く見せる用途にも向いています。実在の社員や現場を撮影しなくてよいため、撮影の調整にかかる手間も減らせます。
動画生成AIがまだ苦手なこと

映像の自然さは驚くほど上がりましたが、企業の動画で使うと見えてくる弱点もあります。ここを知らないまま進めると、「思っていたものと違う」「結局撮り直しになった」ということになりかねません。
自社の製品・社員・建物を正確に映すこと
企業の動画で伝えたいのは、多くの場合「自社の本物」です。実際の製品の形や質感、工場の設備、働いている社員の表情は、AIに生成させても本物にはなりません。参考画像を使えば似せることはできますが、細部の形が変わったり、存在しない部品が付いたりすることがあります。製品紹介や会社紹介で、実物と違う映像を見せてしまうのは、企業として避けたいところです。
細かい指示どおりに作ること
「この位置からこの角度で、3秒かけて商品に寄る」といった細かい指示を、思いどおりに再現させるのはまだ難しいのが実情です。同じ文章で生成しても、毎回違う映像が出てくるため、イメージに合うものが出るまで何度も作り直すことになります。実写の撮影なら現場で調整できることが、AIでは「当たりが出るまで引き直す」作業になる場面があります。
長い映像で一貫性を保つこと
1回に生成できる映像は、数秒から十数秒ほどが中心です。続きを作る機能や参考画像を使う機能で改善は進んでいますが、カットをいくつもつないでいくと、人物の髪型や服のしわ、背景の小物などが少しずつ変わってしまうことがあります。数分の動画を、同じ登場人物と同じ場所でつなげて見せるには、多くの生成と確認、編集での手直しが必要です。短いイメージカットとして使うほうが、今の技術では失敗が少ないといえます。
文字やロゴを正しく入れること
映像の中の看板や画面、パッケージの文字が崩れたり、意味のない文字になったりすることがあります。会社名やロゴを映像の中に正しく入れたい場合は、AIに生成させるより、編集の段階で文字やロゴを重ねるほうが確実です。
「本当のこと」を伝える力
採用動画で働く社員の声を届けたり、お客様の事例を紹介したりする動画は、「実際にあったこと」だからこそ信頼につながります。AIで作った映像は、どれだけ自然でも作り物です。見る人がAIの映像だと気づいたとき、「この会社の言っていることも作り物なのでは」と受け取られるおそれがあります。伝えたいことが事実であるほど、実写の価値は高くなります。
企業が動画生成AIを使うときの注意点
動画生成AIを企業の動画に使う場合は、仕上がりだけでなく、権利や表示のルールにも気を配る必要があります。
利用規約で商用利用の条件を確認する
ツールによって、無料プランでは商用利用ができない、生成した映像の扱いに条件があるなど、利用規約の内容が異なります。会社の動画に使う前に、利用しているプランで商用利用が認められているか、生成物の権利がどう扱われるかを確認しておきましょう。規約は更新されることがあるため、使った時点の内容を記録しておくと安心です。
実在の人物や他社の権利に注意する
有名人に似た人物や、他社の商品・キャラクターに似たものが生成されてしまうことがあります。意図していなくても、そのまま公開すれば、肖像や著作権、商標をめぐるトラブルにつながりかねません。プロンプトに実在の人物名や作品名を入れないこと、生成された映像に似たものがないかを公開前に確認することが大切です。生成AIで作った映像の著作権の考え方は、別の記事でも詳しく解説しています。
AIで作ったことをどう伝えるかを決めておく
AIで作った映像を、実写のように見せて使うと、後から「だまされた」と感じる人が出るおそれがあります。特に、人物が話している映像や、実在する場所のように見える映像は注意が必要です。イメージ映像であることが分かる見せ方にする、必要に応じて「AIで生成した映像です」と表示するなど、社内で方針を決めておきましょう。実際に、伊藤園は2023年にAIで生成したタレントを起用したテレビCMを放映し、AIを使ったことを含めて話題になりました。隠すのではなく、使い方を工夫して伝えることも1つの選択肢です。
社内の確認体制を整える
動画生成AIは、誰でも手軽に使えるからこそ、担当者の判断だけで公開まで進んでしまいがちです。公開前に、権利・表示・ブランドの観点で誰が確認するのかを決めておくと、トラブルを防げます。生成AIの利用について社内ルールがある会社は、動画もその対象に入っているかを確認しておきましょう。
これからの動画制作は「実写×AI」の組み合わせ

動画生成AIが広がっても、企業の動画制作がAIだけで完結するわけではありません。私たちは、実写とAIを役割分担させる形が、これからの標準になっていくと考えています。
企画と試作の段階が速くなる
動画生成AIによって大きく変わるのは、撮影の前の段階です。仮の映像で完成イメージを共有できるので、企画のすり合わせにかかる時間が短くなり、撮影当日に「思っていたのと違う」となるリスクも減らせます。その分、撮影や編集の本番に時間と予算を使えるようになります。
実写の価値はむしろ上がる
AIで誰でもそれらしい映像を作れるようになるほど、「本物を撮った映像」の価値は上がっていきます。社員の表情、製品の手触り、現場の空気は、カメラで撮るからこそ伝わるものです。私たちアクエリアス・ムービーも、AIを企画や補助に取り入れながら、会社の顔になる映像は実写でしっかり撮ることを大切にしています。
費用はどう変わるのか
イメージ映像の一部をAIで作れば、そのカットのための撮影費を抑えられる場合があります。一方で、狙いどおりの映像が出るまで生成を繰り返す手間や、実写と並べたときの色や質感の調整、権利の確認には、相応の時間がかかります。「AIを使えば全体が大幅に安くなる」と考えるより、「予算の使い道を、撮るべきところに集中できる」と考えるほうが実態に近いでしょう。
プロに任せる部分と自社で試す部分を分ける
SNSに投稿する短い映像や、社内向けのイメージ映像であれば、まずは自社で動画生成AIを試してみるのもよい方法です。一方、会社紹介や採用、商品紹介など、会社の信頼に関わる動画は、実写とAIの使い分けや権利の確認まで含めて、制作会社に相談するのが安心です。どこまでを自社で、どこからをプロに任せるかを決めておくと、AIを無理なく取り入れられます。
制作会社に相談するときに伝えるとよいこと
制作会社にAIの活用を含めて相談する場合は、次のような点を最初に伝えていただくと、話が早く進みます。1つ目は、動画を使う場所と期間です。SNS広告なのか、展示会のモニターなのか、採用説明会なのかによって、AIの映像を使ってよい範囲や、必要な表示が変わります。2つ目は、社内の生成AIに関するルールです。生成AIの利用を禁止している、または承認が必要な会社もあるため、制作の途中で使えないことが分かると手戻りになります。3つ目は、絶対に実物を見せたいものです。製品、社員、店舗や工場など、「ここは本物でなければ意味がない」という部分を先に決めておくと、撮影とAIの役割分担がはっきりします。
よくある質問
Q. 動画生成AIだけで会社紹介動画は作れますか?
A. 映像の形にすることはできますが、おすすめはしません。会社紹介動画で見る人が知りたいのは、実際の社員や職場、製品です。AIで作った映像では、その会社らしさや信頼感を伝えにくくなります。イメージカットの一部にAIを使い、中心となる映像は実写で撮る組み合わせが現実的です。
Q. AIで作った映像は、実写と見分けがつきませんか?
A. 短いカットであれば、見分けにくいものも増えています。ただし、人物の手や指の動き、文字、物の形などに不自然さが出ることがあり、実写と並べると質感の違いに気づく人もいます。また、ツールによっては透かしやAIで作られたことを示す情報が付く場合もあります。見分けがつかないことを前提にせず、AIの映像であることをどう扱うかを決めておきましょう。
Q. 無料のツールで作った映像を、会社の動画に使っても大丈夫ですか?
A. ツールやプランによって条件が異なります。無料プランでは商用利用が認められていなかったり、透かしが入ったりする場合があります。会社の動画に使う前に、利用規約で商用利用の可否と条件を確認してください。
Q. 社員の顔写真を使って、AIで社員が話す動画を作ってもよいですか?
A. 技術的には可能な場合もありますが、本人の同意が欠かせません。どの動画に、どの範囲で、いつまで使うのかを説明し、書面で同意をもらっておくのが安全です。退職後の扱いも含めて、事前に取り決めておきましょう。
Q. 動画生成AIで作れる映像の長さはどのくらいですか?
A. ツールやプランによって異なりますが、1回で生成できるのは数秒から十数秒ほどが一般的です。Googleは「Veo 3.1」で、前の映像の最後の部分をもとに続きを作ることで、1分以上の映像を作れるとしています。ただし、長くなるほど人物や背景の一貫性を保つのは難しくなるため、企業の動画では短いカットとして使い、編集でつないでいくのが基本です。
Q. 制作会社に依頼するとき、AIを使ってほしいと伝えてもよいですか?
A. もちろん伝えていただいて構いません。企画のイメージ共有や、撮影が難しいカットの補完など、AIが役立つ場面はあります。そのうえで、どの部分にAIを使い、どの部分を実写で撮るのかを、目的と予算に合わせてご提案するのが制作会社の役割です。
まとめ:動画生成AIは「撮るべきもの」を見極めるための道具

動画生成AIは、文章や画像から映像そのものを作り出す技術で、音声の同時生成や人物の一貫性など、できることが急速に広がっています。企画段階のイメージ共有や、撮影が難しいカットの補完、SNS広告のバリエーション作りなどでは、大きな力を発揮します。一方で、自社の製品や社員を正確に映すこと、細かい指示どおりに作ること、事実を伝えることは、まだ実写のほうが確実です。使うときは、利用規約や権利、AIで作ったことの伝え方にも気を配りましょう。
まずは、これから作る動画の中で「本物を見せたい場面」と「イメージで伝えればよい場面」を分けてみてください。その線引きができれば、動画生成AIをどこに使えばよいかが自然と見えてきます。
アクエリアス・ムービーでは、会社紹介動画や採用動画、商品紹介動画、研修動画など、企業のさまざまな動画を企画から撮影、編集まで一貫して制作しています。実写の撮影を軸に、企画やイメージ映像ではAIも活用しながら、目的と予算に合った作り方をご提案しています。
こんな方は、まず一度ご相談ください
動画生成AIを使ってみたものの、会社の動画として出してよいレベルか判断がつかない方や、実写とAIをどう組み合わせればよいか迷っている方、AIで浮いた予算を撮影に回して質の高い動画を作りたい方は、ぜひ一度お声がけください。動画の目的や使う場面をうかがったうえで、どこを実写で撮り、どこにAIを使うかを、費用の目安とあわせてご提案します。詳しくはアクエリアス・ムービーをご覧ください。
逆に、まだ相談しなくても大丈夫な方
SNSに試しに投稿する短い映像や、社内の会議で使うイメージ映像を作りたい段階であれば、まずは動画生成AIのツールを自分たちで触ってみるのがおすすめです。利用規約を確認しながらいくつか作ってみると、AIが得意なことと苦手なことが実感として分かってきます。そのうえで、会社の顔になる動画をきちんと作りたくなったときに、改めてお声がけいただければ幸いです。

